スパイダースピン詳細解説
ロッドコンストラクション編
吊るしテクニック特化型、専用機ハングマンと水陸両用バーサタイルパワーフィネスを目指したグランドスピンコブラコンセプト。一見対照的な機種であるが……
最先端のカーボン素材とロッド設計および工法技術を持ってすれば、611グランドスピンコブラコンセプトをさらに昇華させるだけでなく、さらには吊るしテクニックへの対応能力に関しても、専用機ハングマンを超えられる。
トレカ®M40X+トレカ®T1100Gフルレングス採用版のサンプルを手にした今江は、そう確信。並行して進んでいた両機種の開発が、ここに一本化することとなった。
「今後、劇的な素材革命でも起きない限り、パワーフィネススピニングロッドの史上最高傑作にして最終形態、終着点になると断言できる」
今江克隆にそう言わしめたロッドの詳細が以下である。
専用機種を超える吊るし特化型にして、
バーサタイルパワーフィネスをも
体現するブランクスの秘密
飛距離と操作性を兼備可能な黄金律6フィート11インチ、
パワー溢れる全身トレカ®M40X+トレカ®T1100G
トレカ®T1100+ナノアロイテクノロジーの素材的特性ともいえる「実際に使うと高弾性とは思えないほどしなやかに感じるのに、強烈な反発力を具備している」という特性に加え、「超高弾性らしく極めて硬くシャープで振動伝達性特性に優れつつ、従来の高弾性では考えられない程の破断強度を有する」トレカ®M40X+ナノアロイテクノロジーのミックスアップによって得られた特性は、これまでのパワーフィネスロッドの概念を根本から変えうる仕上がりとなった。
飛距離と操作性を兼備可能な黄金律ともいえる6フィート11インチ。有効レングスは7フィート超。全身トレカ®M40X+トレカ®T1100Gで、フッキングパワー、リフティングパワーについては言わずもがな。並みのMHベイトタックルを凌駕するパワーが漲っている。
ちなみに、カレイドの代名詞である4軸補強は採用せず。トレカ®M40Xとトレカ®T1100Gダブル採用で十分すぎるほどのパワーがあるブランクスに4軸を入れると、必要以上の強さが前面に立ち、高弾性スピニングロッドとしての繊細かつ鋭敏な使用感を打ち消してしまうからだ。
パワーフィネス全般を超高次元でカバーするだけでなく、パワーフィネスの枠を超えたパワースピンとしてのスペックも兼ね備え、さらには吊るしに対しても専用機ハングマンを開発停止に追い込むほどの超ハイスペックなブランクスの誕生である。
ボート専業であれば、ハングマンコンセプトのようなショートロッドのメリットをいかんなく発揮できる状況もあるが、陸っぱりアングラー目線では、極めて狭い使用用途に留まってしまう。611というレングスであれば、ボートからの吊るしでもロングディスタンスからのピッチングや、フッキング時の打点の高さが有利に働く状況は多い。
ただ硬いだけでない、あらゆるジレンマを克服する
最先端素材 × ロングレングス × チューブラー構造
また、同じくハングマンコンセプトのソリッドティップと違ってフルチューブラー構造を採用したことは、前述のキャスト時のティップ垂れを防ぐのみならず、リニアな操作性にも貢献。ソリッドティップならではの負荷に対して入りやすいという特性上、操作とルアーの動きにはたとえ微細であれ、ラグが発生する傾向があるが、張り感を出しやすいチューブラーの場合はダイレクトな操作が行いやすい。
とはいえ、単にただ硬いだけのティップでは軽量ルアーのキャストや操作において致命的な支障が出てしまうだけでなく、バイトをはじくこともあるかもしれない。しかし、その心配は杞憂に終わる。操作時のシャープな張り感と、キャスト時やバイトに対しての柔軟な入りという、矛盾するかのような性能をトレカ®M40Xとトレカ®T1100Gのダブル採用という最先端の工法により、見事に両立しているのだ。
そして、611という長めのレングスがここでも活かされる。精度を求めてロッドを短くするほど硬さを感じやすくなる傾向があり、軽量ルアーを乗せて投げにくくなってしまうというジレンマがあったが、611の長さ、そしてトレカ®T1100+ナノアロイテクノロジーの高弾性とは思えないほどの力強さとしなやかさがティップの入りシロの確保に寄与しており、そのジレンマを完全に克服。
しかも、トレカ®M40Xとのダブル採用で、ロングレングス化しても圧倒的に軽く、強靭に仕上げることができる。ロングロッドの先端に中身の詰まったソリッドティップを接合することは先重りの要因にもなるが、空洞のあるチューブラー構造ならその心配も無用。
現代の必須テクニック、
水中での吊るしを完遂する超高感度ティップ
そして、圧倒的に優れているのが感度。最先端の吊るしでは、水面より上のカバーだけでなく、ディープの目に見えない水中の枝にラインを掛けて誘うテクニックも必須となっている。
そのためロッドには、目に見えない枝1本にラインを掛けるための鋭敏な感度が要求される。さらに、手元に情報が伝わりにくいディープの、しかも枝越しにラインが屈折した状態で、ルアーがどう動いているのかをも明確に感じ取れなければ、望み通りの結果には辿り着けない。
ソリッドと比べて反響感度が高いチューブラーティップ、しかも最先端高弾性カーボンをダブルで採用したことで、このロッドは感度に関しても、吊るし特化機種ハングマンを凌駕する能力を手にしているのだ。
超ハイスペックブランクスの能力を
100%活かし切る
周辺パーツへの徹底的なこだわり
“ハングマン511MHSTコンセプト”に端を発し、“グランドコブラ611XMH”の意思を受け継いだことで“グランドスピンコブラ611MH”へと進化の歩みを進めてきたこのロッドは、以降も度重なる実戦テストを踏まえたフィードバックを経て、ガイドセッティング、グリップデザイン、バランスの微調整を繰り返し、さらにその性能を徹底的に鍛え上げていくことになる。
以降は、その過程で磨き上げたこだわりのポイントである。
ガイドセッティング
スパイダースピンのガイドセッティングには、見過ごされがちだが非常に重要なポイントがある。それが、バットの元ガイドをやや手前(グリップ側)に寄せ、それに準じでチョークガイドをセンターやや手前に寄せて配置したセッティングである。
その意図は、キャスト時に放出されるラインを早い段階で一気呵成に収束させることで、リーダー結束部を含む糸抜けの悪さや、張りのないPEラインがガイドに絡むといったトラブルにも繋がる無用な糸暴れを抑制し、心地良いキャストフィールと安定的な飛距離を約束するだけではない。カバー絡みの釣りでルアーを精密に意図通り操るために重要な、ティップセクションの不要なたわみ感やパワーロスを抑えたシャープな操作感を、より向上させるための工夫でもある。
このセッティングのおかげで、ラインを綺麗に収束させた先の区間にはより小型でありつつ、十分なリング内径を確保したチタンフレームトルザイトリングガイドを使用できるため、ブランクスの先端側をより軽く、シャープに仕上げることができるようになる。
しかも、ロッドの中でも細いパートであるティップ~センターにかけて、ラインがブランクスに近い位置を通ることでパワーロスを排し、ブランクス自体の持つ素の性能を発揮させやすいというメリットが生まれるのだ。このロッドの場合、トレカ®M40X&トレカ®T1100Gというだけでも十分すぎるほどシャープな仕上がりであるが、ガイドセッティングの恩恵も忘れてはならない。
さらに、バットガイドを手前に寄せることは手元重心化にもつながり、縦捌きの際に6フィート11インチというレングスを感じさせない優れたダイナミックバランスを実現。そのバランスの良さは実際のレングスよりもロッドをより短く感じさせる効果にもつながり、操作感覚の軽快さにも貢献している。
リールシート&フォアグリップ
このロッドのリールシートには、数多のスピニングロッドでも採用されている、細身で操作性に優れるVSSタイプのリールシートを採用しているが、そのシートサイズはバスフィッシング用としては、異例ともいえる17サイズを採用しているのが他にない特徴。
その理由として、強烈なパワーを有するブランクスに対して細過ぎるグリップでは力が入らず、折角の性能を存分に引き出せないことが大きい。裏を返せば、ブランクスのパワーに対して適正な太さを有したリールシートを選択することで、軽い力でロッドをホールドしても安定するため、操作時の余計な力みを排除でき、より繊細で精密な操作が可能となるのである。
また、フォアグリップ部にはインスピラーレの7フィートクラスの機種にも採用されているメタル製ワインディングチェックと高感度4軸カーボンを採用したリールシートナットを採用し、軽量・高感度化を追求。
さらに裏技的なテクニックではあるが、ピッチング時、ラインを掛けた人差し指をワインディングチェックとブランクス、あるいはシートナットとワインディングチェックの段差に軽く添えることで、鋭くロッドを振り上げる際の指先や手元のブレを抑える効果があるため、キャスト精度のさらなる向上にもつながる。
このように、ブランクスがパワフルであっても、その能力を存分に引き出すためにはアングラーの接点つまりグリップのセッティングこそが重要なファクターとなることを忘れてはならない。
エンドグリップ
やや太めのリールシートに対して、エンドグリップはその逆を行く、従来のセルペンティシリーズよりも細径に設計。
このスパイダースピンを開発する上で、実戦面での最重要課題でもあったキャスト精度。単なるスポットシューティング性能に留まらず、吊るしにおいてはランディング時に枝を越えてバスを引き出すことまで考えると、とりあえず何かにラインが掛かっていれば良いというわけでなく、可能な限り、枝一本だけに狙ってラインを精密に掛けるアプローチを実現したい。
前項のリールシート&フォアグリップと相まって、そんな神キャストの実現をアシストしてくれるのが、初見では違和感すら覚えるこのコンパクトなエンドグリップ。しかし、このエンドグリップのサイズ感と形状こそが劇的な取り回しの良さの源泉。キャストやロッドワークの際に肘や袖口への引っ掛かりがなく、自由自在にストレスなくロッドを取り回せるからこそ、難しい体勢や様々な角度からのキャストが可能となり、ピッチング精度が劇的に向上する。
エンドグリップの素材は、操作時の手元重心バランスを実現するセルペンティ定番の高硬度EVA。その一方で、エンド部には強化圧縮ラバーコルクとエンドバッジを組み合わせた、セルペンティ初となる独自デザインを新規採用。
長期使用時や陸っぱりで地面にロッドを立てかける際の耐久性の確保はもちろんのこと、サイズ的には明らかにコンパクトなエンドグリップであるにもかかわらず、膨張色となるコルクの色味が後端に配されることで視覚的な異形感をなくしている。これは、単なるデザイン上のバランスを整えるだけに留まらず、実釣時のフィーリングにも大いに影響を及ぼす重要なパーツとなっている。
セパレートグリップ
エンドグリップEVA上部の4軸カーボンリングについても、単なるデザインではなく、人間工学的な目線で実戦を見据えて配置している。
この部位は、両手でのキャストで、引き手を添える引っ掛かりとなる重要な役割を果たすのだが、生産効率やコスト効率のみを考えれば、エンドグリップのEVAを一体で成形してしまう方が良いことは疑う余地のないところ。
スパイダースピンでは、エンドグリップを小型化してピッチングやロッドワークの動作で邪魔にならないよう配慮しているものの、さらに少しでも引っ掛かり感をなくすために、摩擦抵抗が高いEVA素材の代わりに、摩擦抵抗が小さいカーボン素材のリングをセパレート部とエンドグリップの接合部に設置するという手法で、段差を形作っている。
このストイックなまでのこだわりも、すべては実戦での機能を強化するため。様々なシーンで使用することで、両手でのキャストでは引き手をホールドする引っ掛かりとなるが、ピッチングやロッドワーク等の片手での動作では肘や袖口に引っ掛かりにくい、理想的な配置と形状であることが良く理解いただけるはずである。
インナーパイプ
ここまで心臓部となるメインブランクスの性能をフルに引き出す上での詳細なこだわり要素を紹介してきたが、そのこだわりは外観から判断出来る部分に留まらない。その1つが、リールシート、コルクグリップの中を通り、エンドグリップにまで達するインナーパイプ(セパレート部のブランクス)である。
溢れんばかりのパワーとシャープさを持つトレカ®M40X&トレカ®T1100Gブランクスであるがゆえ、それを受け止める手元の重要度も増すことになる。そこで、インナーパイプを弾性率や素材特性の異なる以下の3種類のカーボンで製作。
①高樹脂タイプの24トンカーボン
②トレカ®T1100 33トンカーボン
③超高弾性50トンカーボン
これらを基に実際にロッドを組み上げ、操作時の手元とティップ間のパワーの伝達や同調性、感度、キックバックの強さ等について、実戦を交えたテストを繰り返した。
その結果、インナーパイプにも②トレカ®T1100Gを使用したロッドが、その全ての問題を解決する上でベストという結論に至った。
比較検討の過程において、まず24トンではキックバックが和らぎ、アングラー側のストレスは軽減されるものの、シャープさに欠け、少々ボヤけた感触で、これではトレカ®M40X&トレカ®T1100Gが持つ特性・魅力をスポイルしてしまう。
一方の50トンでは明確に手元の硬さが際立ち、トレカ®M40X&トレカ®T1100Gのパワーとシャープさのすべてをピンポイントで受け止めなければいけない感覚。つまりは遊びが少なすぎて、アングラーの身体への負荷の大きさや扱いの難しさが浮き出てしまう結果となった。
そのような中、トレカ®T1100Gインナーパイプの場合、パワーや張り感に加えて適度に伸びる感覚があることで、キャスト時に手元でのタメ感が生まれ、ロッドを十分にしならせにくいピッチング時においてもリリースのタイミングが掴みやすい感触へ。
一方、フルキャスト時にも、ルアーのウエイトをしっかりと乗せて振り込むことができるため、心地良いキャストフィールと期待以上に飛ぶ感触が得られ、611のロッドレングスにより、実際に想像以上に軽いルアーウエイトまでをしっかり飛ばせることに驚かされる結果となった。
話は逸れるが、フルキャスト時に、押手と引手の間に位置し、瞬発的に大きく複雑な力が掛かるセパレート部には、捻じれ抑制効果の高い±30° 4軸補強を唯一例外的に施したことも、キャストフィール&飛距離の向上に貢献している。
最後になるが、トレカ®T1100Gインナーパイプの良さをもう1つ挙げるとすれば、メインブランクスにも先端までトレカ®T1100Gが使用されている点からも、異素材をメインマテリアルとする他のインナーパイプを使用したパターンと比べて、手元と穂先の同調感が大幅に高い印象の仕上がりとなっていること。
そのため、ロッド操作において、アングラーの意思をルアーに伝えやすくなるのはもちろん、ロングシェイクの際のリストや腕の疲れが非常に少なくなるという点も、トレカ®T1100Gインナーパイプの見逃すことのできないメリットである。
このように外観には現れない部分にこそ愚直なまでにこだわるのが今江克隆という男であり、エバーグリーンが掲げる“実戦至上主義”のスピリットでもある。
こうしたきめ細かな要素の積み上げを基に、グリップエンドバランサーを使用せずともロッド単体で持ち重り感のない、全体が調和した総合的なバランスを実現したことが、キャストのイージーさとストレスフリーな操作感に直結。7フィートの有効レングスを感じさせない軽快さを担保しながら、MHクラス以上のパワーとの両立を実現している。
ついに完成を見たロッドは、当初の求める性能をすべて具現化したバーサタイルパワーフィネスに留まらず、最先端の吊るしテクニックを完遂するべく、軽量ルアーを使用する際のキャスタビリティから操作性&感度まで、さらには並みのMHベイトタックルを凌駕するリフティングパワーを備えるに至った。ボート、陸っぱりの枠を超えた、まさに新世代パワーフィネスバーサタイルの誕生である。
そして冒頭のコメント通り、今江をして「劇的な素材革命でも起きない限り、パワーフィネススピニングロッドの史上最高傑作にして最終形態、終着点になると断言できる」と言わしめたこのロッドは満を持して「スパイダースピン」の名が与えられた。
自らの運命に立ち向かい、新たな時代を切り拓いてゆくあのヒーローの様に。天より来たる蜘蛛の糸が、吊るしを極めながらも、卓越したバーサタイル性能を有する水陸両用・新時代のパワーフィネスの極みを体現する。
TKSS-611MH-TG40X
スパイダースピン
●Length:6'11" ●Power:M-Heavy 
●Lure Weight:1/16~3/4oz ●Line:4~12lb/PE0.8~2号
※「トレカ®」&「ナノアロイ®技術」は東レ(株)の登録商標です。
※フィールド写真の製品はプロトタイプです。