テムジン・カレイドが当時最新のスーパークワトロ(4軸)クロスを身にまといデビューして以来5年の歳月を経たが、その間にも4軸製法に関連する理論、および技術は進化し続けていた。それらの最先端テクノロジーを一気に搭載するため、テムジン・カレイドはカレイド・インスピラーレへとモデルチェンジを果たすことになる。

「インスピラーレ(Inspirare)」とはラテン語で「鼓舞する。発奮させる」の意味を持ち、英語の「インスパイア(Inspire)」の語源となった言葉だと言われている。そう、カレイド・インスピラーレは約20年前に今江克隆が生み出したコンバットスティック・インスパイアへのオマージュであり、その伝説が再来することを予感させるものである。そして、初代コンバットスティックからインスパイアへと進化を果たした時と同じように、インスピラーレのリリースは、時代の先頭をさらに走り続けるという今江の決意の現れでもある。

カレイドからインスピラーレへ・・・そのモデルチェンジのポイントは大きく3つある。4軸構造を中心にブランクを再設計したこと。独自のセミマイクロ・シングルフットガイドセッティングへと大きくガイドシステムを変更したこと。そして、フォアグリップレス・スリムタイプリールシートの採用だ。最後のグリップ部に関しては、全機種にコルクグリップ(トーナメントシリーズ)とEVAグリップ(ブラックシリーズ)の2タイプをラインアップしたことも大きな特徴である。

 
ブランク本来のパワーを最大限に引き出す
セミマイクロ・シングルフットガイドセッティング

3年の時間をかけたテストの結果、インスピラーレには独自の超軽量セミマイクロ・シングルフットガイドセッティングを採用、ロッドが曲がった時にラインがブランクを擦らないギリギリの高さになるよう設計した。

セミマイクロ・シングルフットガイドは、大型のガイドやダブルフットガイドに比べて、ガイドのフットがブランクのしなりに影響を及ぼすことが少ないため、加えてガイドの重量自体が非常に軽量なため、ブランクが本来持っているテーパーや強さを素直に表現しやすい。
さらに、ガイドの位置が低いため、ラインがブランクに近づくことによる効果でネジレ方向へのガイドの倒れ込みが抑制されることもあり、本来のブランクが持つ性能をよりダイレクトに引き出すことができるようになる。それにより、キャストやフッキングにおいてロッドの芯を食いやすくなり、パワーロスを防ぐというメリットを生み出してくれる。

ただし実際は、3年のテストの大半がガイドのセッティングにではなく、セミマイクロガイド化におけるロッドアクション、特にブランクの張りの変化への影響を見極めるために費やされていた。同じブランクでもガイドひとつ変えるだけでアクションが別物になることがあるからだ。それが、ガイドシステム全体の変更となればなおさらである。つまり、ガイドシステムを変えるということは、ブランク自体を設計し直さなければ目的の硬さやベンドカーブを出せないということになる。

そこで、カレイドからインスピラーレへのモデルチェンジでは、ガイドがアクションに及ぼす影響に注意を払い、入念な調整&テストを繰り返した。その結果、それぞれの用途、目的に適合する理想的なアクションを持つブランクが誕生したが、それはテーパーと4軸の関係を最大限考慮したブランク設計によるものだ。


テーパーに合わせて最適な4軸製法を選択
そのパワーを極限まで発揮させる最新ブランク設計

インスピラーレには大きく分けてハイテーパーとローテーパーのブランクが存在する。

まず、ハイテーパーとはバットのブランク径が太く、ティップ径との差が大きいものを言う。バット径が太いということは、その分バットパワーを強く設定できるということで、バットからベリーを強化したいファストアクションロッドに向いたテーパーだといえる。

ところが、4軸なきハイテーパーロッドは力が掛かった際に、ブランク径が太い分楕円に変形する率も大きく、タワミが発生しやすくなる。それを防ぐためにカーボンシートを厚く巻いて肉厚にすると、ひどく重量が増加してしまう。しかし、ネジレ&ツブレ方向への理想的な補強素材であるスーパークワトロクロスと組み合わせることで、肉厚にすることなく(必要以上に重量をアップさせることなく)タワミを抑制し高トルク化することができるのだ。

つまり、ハイテーパーロッドにとっては、軽量化と強靭化を同時にかなえる理想的な補強がスーパークワトロクロス製法なのである。その相性の良さから4軸をバットのみ、バット~ベリー、バット~ティップまで等使い分けることで、狙いのパワーやアクションを表現しやすいのも特徴である。


インスピラーレに採用している最新のスーパークワトロクロス製法には±45°製法(下図①)と、±30°製法(下図②)が存在する。

数字は斜め補強繊維の角度を示しており、±45°製法はオリジナル・カレイドシリーズから引き継がれた製法であるが、インスピラーレシリーズにおける4軸製法のベースは、その進化形として誕生し、カレイド後期リリース機種の一部でも採用されていた±30°製法である。その、より斜め補強の密度を高めた±30°製法により、重量をほとんど増加させることなく、さらに大きなパワーを発揮させることができるようになっている。ただし、この製法は非常にパワフルなため、それぞれの機種において搭載する部位を吟味することが重要となる。

さらに、今回のモデルチェンジでは、最先端の4製法を象徴する、両製法を1本のブランクにミックスさせたハイブリッド式スーパークワトロクロス製法を取り入れた機種も存在する。このように、ブランクのパワーや性質をその目的に応じて4軸で自由に操ることができるのが最新のスーパークワトロクロス製法の大きな特徴である。


しかし、4軸製法はあらゆるロッドに同じメリットを生み出すわけではない。どうしてもその製法が不向きなロッドも存在する。その象徴がローテーパーロッドだ。

ローテーパーロッドはバット径とティップ径の差が小さい細身のブランクが特徴で、アクションとしてはロッド全体のしなりでパワーを生むスロー、もしくはレギュラーアクションのロッドに採用されることが多い。特に巻き物系のローテーパーロッドに関しては、今回のブランク再設計では4軸の採用を最小限に留めているか、もしくは全く採用していない。

その理由は、細身のロッドを4軸武装すると軽くシャープになりすぎて、キャスト時にしなりが生まれにくくなってしまうからだ。結果、巻き物の釣りで重要なキャストフィールやアキュラシーが悪化してしまうことになる。そのため、力強く吹け上がるようなスイングトルク、すなわちブランクをムチのようにしならせて弾丸のように押し出す力を求められる巻き物系ローテーパーロッドの場合、すべてを4軸に頼るのではなく、あえてブランク自体を肉厚にすることやレジン量の調整で、ネジレやトルクをカバーしたほうがいい結果になることが多い。

このように、カレイドからインスピラーレへのモデルチェンジでは、見た目にはわかりにくい部分であるが、たとえ同ネームのロッドであってもブランク自体が変わっている。それぞれのロッドの目的に応じて最適なテーパー選択とそれに合わせた4軸製法を取り入れブランクを再設計しているのだ。その究極のブランクとセミマイクロガイドセッティングの相乗効果で、さらにロッドの芯を食いやすくなり、キャストやフッキングにおけるパワーを最大限発揮させることができるようになった。


用途・目的に合わせ一部機種にオールダブルフットガイド採用
対超ビッグフィッシュやビッグベイトを扱う場合、あるいはオカッパリでのハードな使用等を考慮して、意図的にセミマイクロ・オールダブルガイドを採用した例外機種も一部存在する。ダブルフットにすると先重りのダルさはどうしても出てしまうものの、ガイドのフットとスレッドの面積が倍増することで、その分が曲がり&ネジレに対する補強的な役割としてプラスされ、タフ&トルク感がアップする。

かつてオールダブルフットガイドを使用したロッドには、ガイドフレームの硬さを除外した実際のブランクパワーが想像以上に弱いものがあったが、今回のモデルチェンジにおいては、再設計されたブランクにダブルフットガイドを採用したことで、本来のブランクパワーがアップしたうえで、さらにタフ&トルク感が増大している。


軽量かつ強靭なシャフト部を活かし
全身をハイバランス化するグリップデザイン

一方、今回のモデルチェンジにおいて外見上、最大の特徴となるのがフォアグリップレスを採用したグリップ部である。

フォアグリップレス採用の理由は、ただ単に斬新なデザイン性を持たせるためではなく、4軸製法の進化と超軽量ガイドの採用にともないブランク部が軽量化されたことに合わせて、グリップ部も軽量化を図るため。ブランク、ガイド、グリップ、それら全体の再構築により、ロッド全体が驚異的に軽量化&ハイバランス化されたことで、すべての機種においてキャストフィール、操作性、フッキングレスポンスが向上。たとえヘビーパワー以上のジグワームロッドにおいても、これまでのように両手でホールドして抱きかかえるようなフッキングをする必要がなくなったこともあり、もはやフォアグリップの必要性は感じられなくなった。

また、スリムタイプのブランクタッチ式リールシートを採用したことも軽量化に大きく貢献しており、そのうえグリップが細身で握りやすいことから手首の自由度が増し、キャスト精度の向上に一役買っている。

さらに、インスピラーレにはコルクグリップの「トーナメントシリーズ」とEVAグリップの「ブラックシリーズ」の2系統が存在する。どちらのシリーズもラインナップされる機種は同じであり、同じブランクでコルクグリップのモデルとEVAグリップのモデルが存在するという珍しいシリーズ分けになっている。

現代の代表的グリップ素材であるコルクとEVAにはそれぞれ長所短所があり、どちらが優れているというべきものではない。コルクは硬度が高く、空気を多く内包していることから感度伝達力に優れるという利点があり、EVAは形状的耐久性が高く長持ちすることや、その柔らかさゆえキャスト時の手首へのキックバックが弱いというメリットを持っている。

そのため、コルクは高感度を求めるトーナメンターに好まれる傾向があり、確かにトーナメントでの使用頻度が高いジグ・ワーム系の釣りではコルクを使いたくなる。一方、EVAは長期間あるいは長時間使用するハードユーザーにはプラス面が多いと言える。長期間使用した際の痩せも比較的少なく、ハードベイトを1日中投げても疲れにくいのだ。よって、使い分けとしては、巻き物にはEVAグリップのブラックシリーズ、ジグ・ワーム系にはコルクグリップのトーナメントシリーズということになるだろう。

とは言うものの、ブラックシリーズをラインナップしたもうひとつの大きな理由として、ロッド全体のカラーコーディネイトがブラック1色に統一できるためリールとのカラーバランスがとりやすくなり、より戦闘イメージが高くなるというデザイン性を最大に考慮したこともあげられる。



 

ロッドの用途に応じたテーパー選択に始まり、その性能をより引き立てる4軸製法の選択、そしてそれぞれの個性や目的に合わせたガイド&グリップ選択まで。それらすべての組み合わせを最適化した結果もたらされた、強靭かつ軽量という相反する要素。当初は必要以上の軽量化を良しとせず、トルクとタフネスの強化へと指向性が向けられたテムジン・カレイドシリーズの発表から5年を経た今、最先端の技術&理論に基づき繰り返される実戦テストによりカレイド・インスピラーレが誕生した。インスパイア伝説の再来を予感させる新たな伝説の息吹となって、ついに本当の意味での「強靭化と軽量化の両立」という大進化を遂げる。