清水盛三×Dゾーン
出発から現在に至る、
劇的20年の歩み
text by Basser(Masao Horibe)/
Basser 2020年11月号より一部転載
世紀末に現われた異端・異形の“D”
「Dゾーンは競技のなかで、こわれる可能性が高くても1本のビッグバスを獲ることにこだわって作られたスピナーベイトです。(中略)40cm/1kgクラスなら3本程度釣りあげたときが折れを防ぐ交換の目安となります」
2000年の発売当時、まず衝撃的だったのが、台紙の裏面に書かれたこの注意書きだった。エバーグリーンがメーカーとして充分に安全マージンを取った大げさな表現だろうとは想像できたが、それでも「こわれる」「折れる」という文言にビビった。同時に、そのハイリスクがどれほどのハイリターンな釣果をもたらしてくれるのか、強く興味を惹かれた。
Dゾーンは、その姿形も異彩を放っている。今でこそ見慣れたが、こわれる可能性が高いというのも納得のライトワイヤー仕様。アッパーアームが中ほどで湾曲しているのも珍しい。搭載されたフックは太軸ではあるものの、サイズは、ちゃんと掛かるのか不安になったほど小さい。
名前もナゾだった。当時の盛三さんはホームレイクの琵琶湖でヘビースピナーベイトのスローロールを十八番にしていたから“D”は「Deep」の頭文字? いや、“D”に盛三さんが込めた思いはふたつ。ひとつは「Dramatic」。このスピナーベイトを使ってくれる人たちに、感動的なバスとの出会いがありますように。
ふたつめは「Departure」。自身のブランドMo-DO(モード)で初めて手掛けたルアーの名前を使って、盛三さんは「ここから出発する」という決意表明をしたのだ。Dゾーンが発売された2000年、盛三さんは、JBがレイク・ミードで開催したワールドシリーズUSチャレンジを勝っている。このアメリカでの初勝利は、それから2年後の米国ツアー参戦への「出発」に繋がっていくことになる。いずれも今からちょうど20年前の出来事だ。
“必殺技”の覚え方
Dゾーンにかぎらず、盛三さんはMo-DOのルアーについて決して“秘密”を語ってくれない。取材でイイ魚を釣ってテンションが上がりまくっているときも、お酒が入っているときも、口を滑らせない。この取材で20周年記念サービスがあるかもと思ったが、その期待も空振りに終わった。
しかし、本人が語らずとも、Dゾーンがなぜ20年もの長きにわたってバスを魅了し続けているのか、その“秘密”の一部は解明されている。
標準的なモノに比べて幅が若干広めのウイローリーフブレード。そのパワフルな回転力をライトワイヤーで増幅して、ヘッドを前後(上下)に振れさせ、スカートを泳がせる。アッパーアームを中ほどでベンドさせ、さらに湾曲させているのは“バネ”だろう。直線よりも、このように曲げたほうが使用する線材が長くなるため、よりしなりやすくなる。
しなりやすいアームはフッキングのよさにも繋がる。フックポイントがどこかに立った(軽く刺さった)状態から、アームがスムーズに開くことで、ラインが引かれる方向とハリ先のアングルが速やかに重なる。この調節を“バネ”が素早く自動的に行なってくれるから、Dゾーンのハリは小さくても、問題なく深くガッツリ刺さる。さらに愛用者は体感しているはずだ。「スピナーベイトにしては外掛かりで釣れるケースも多い」と。これもバネ化されたライトワイヤーの恩恵ではないのか……、といったことを盛三さんにぶつけてみた。
「まァまァはずれてはいないかな。でも! ぜんぜんまだまだですけどねェ。“秘密”は墓場まで持っていくわ(笑)」
普通であれば語ってくれる。力作のこだわりを説明したくて。あるいはプロモーションのために。けれど盛三さんは、「よく釣れるから使ってみて!」と笑いながら大声で言うだけだ。
「説明もナシに発売するから、僕が作るルアーはどれもスロースターターばっかり(苦笑)。アメリカ行ってて日本でプロモーションできてなかったし。Dゾーンしかりワイルドハンチしかり、最初はそんなに売れへんかった。でも、イイものを作ればいずれ必ずわかってもらえるから大丈夫、自信がある。それにねェ、何もかもぜんぶ教えられてしまったら面白い? 少なくとも僕はそうじゃないから、使ってくれる人の楽しみを奪ってしまうのは申し訳ない」
盛三さんは、小学生のころからほかのどのルアーよりもスピナーベイトでたくさん釣ってきたという。現在とは別次元のように情報がなかった40年前、自分でいろいろなことを試し、気づき、上達を実感する日々が楽しくてバスフィッシングにのめり込んだ。
「中学生のころやったかな、小学生のときかもしれない。釣れへんときにバックラッシュしてさ、やっとほどいて巻いたらゴーン!と釣れた。そのあとまた釣れへんくて、それでさっきの釣れ方を再現してみた。投げて、底まで沈めて、ちょっと待ってから巻き始めた。ボトムをゴツゴツ感じながら引いてたらまたゴーン!って。この引き方に名前があることも知らなかったから、俺だけの“必殺技”や!!って。スローロールなんやけどね(笑)。
ミスキャストの回収中にドッカーン!て食うてきて(略)ガーグリングなんやけどね(笑)。こんな超高速で巻いても食うんや!ってビックリした。懐かしいなァ」
こういうふうに、自分でひとつひとつ体験しながら、じっくりバスフィッシングにのめり込んでほしい。そしたら最低40年は楽しめることを僕が保証するよと、盛三さんは笑って言った。
Basser本誌では
■Dゾーンサイズ別・タイプ別解説
■利根川水系での実釣取材記事
も掲載されておりますのでぜひご覧ください。
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