クロスファイア製法、
GT-Rに極まる。
インスピラーレ・スーパースティードGT-R
開発ストーリー
究極のキャストフィール&完璧なランディング性能を求めて ▶ 露呈するしなやかなロッドの問題点、ロッド構造のタブー・スパインの存在
「キャストしやすいと謳われているロッドが本当に良いロッドかどうかは、バックハンドキャストをすれば1投でわかる」と今江克隆は言う。

ロッドのブランクスを製造する過程で避けられないスパイン(偏肉=背骨)の発生。ブランクスを輪切りにした際の断面を見てみると、多かれ少なかれ肉厚の厚い部分と薄い部分があり、曲げる方向によってロッドの硬さに差が出てしまうという現象が起こる。素材や製法、テーパー、アクション等様々な条件によってその現象、すなわちスパインの強弱に差はあるが、ときにスパインがキャストやフッキングモーションの邪魔をすることがある。

とりわけ気持ちの良いキャストフィールと高コントロール性を実現する「よく曲がる」ロッドほどその影響が顕著に表れる。たとえばバックハンドサークルのようなロッドを極端に捻るキャスト法では、ある一点でブランクスが急激に捻れてスムーズな回転運動が阻害されてしまう。



「ロッドがしなって戻るまでの間に、ある部分では突っ張ったり、ある部分ではグリンと一気に倒れ込んでしまい、放出パワーのグラデーションが崩れてしまう。キャストのパワームーブメントがスパインにつまづくことでスライスやフックが多発するんだ」と今江。そのため、スパインの強いロッドに持ち替える場合は、そのブランクスのクセを掴むための感覚の微調整に3投ほどの試投を要するという。

そのスパインとの戦いの歴史とも言えるロッド、それが今江が過去にプロデュースしたクロスファイアシリーズである。「剛」のテムジンに対して「柔」のクロスファイアでは、クロスファイア製法とも言うべき独特な製法でスパインを相当に抑え込むことに成功し、発売から10数年経過した今でもクロスファイアを愛用する根強いファンがいるほどその評価は高い。



しかし、次世代スティードを開発するにあたり今江が重視したのは、時代が求める必然から、当時のクロスファイア・スティード(Mパワー)で扱っていたルアーよりさらに軽い、とりわけシャッドのようなルアーを一切のブレなくあらゆる体勢から狙い通りキャストできる能力であった。

そのうえで、いくらキャスト性能に優れていても、シャッドのように小さなトレブルフックを搭載したルアーでもバラさず確実にランディングまで持ち込む能力を併せ持っていなければ実戦では使い物にならない。



たとえば、バラシ対策としてあげられるグラスロッドという選択肢。しなやかに曲がりバイトの乗せ性能に優れるグラスロッドは、とりわけ足元のバイト等近距離戦のランディングに高い能力を発揮してくれる。しかし、ロングキャストして遠方でバイトがあった場合、その柔軟性が仇となりフッキングパワーが十分に伝わらず、最初のジャンプ一発でバラす確率が高くなってしまうというのもまた事実である。また、ゆったりと柔らかいモーションのキャストはしやすいものの、小さいモーションで鋭く弾き出すようなキャストには不向きである。

一方カーボンロッドは、シャープでキレがあるため、鋭い低弾道キャストや感度、遠距離フッキングに強みを持つが、ピックアップ寸前の近距離バイトを弾いてしまうという事態が多発する。つまりは、グラスの追従性と粘り、そしてカーボンのキレと掛け……この相反する矛盾を1本に封じ込めたアクションこそが、キャスト~ランディングのすべてにおいて理想的なものとなる。

「掛けのロッドはトレカⓇT1100Gを始めとする最先端素材で解決できる要素が多いが、しなやかに曲がるロッドを同様の手法でつくろうとすると、スパイン発生率の問題やフッキングパワー不足を補うためにアクションが犠牲になってしまうなどの問題があり、素材だけでは解決しきれない部分も多い。だからコンストラクション、ブランクス構造がより重要になるんだ」



ロッド構造のタブーに挑むスーパークロスファイア製法、ここに極まる ▶ ブランクスの潜在能力を100%引き出すために
スーパースティードのメインシャフトには時代の流れに反した高レジンタイプの特殊カーボンをあえて選択。そして、シャフト全体がムチのようにしなる柔軟性を手に入れるためローテーパーに設計。そのため、コブラやスタリオンと同様のコンセプトで4軸は不採用とした。さらに、隠し味的にトレカⓇT1100Gを少量使用することで、カーボンロッドとは思えない「しなやかさ」と「粘り」、さらに、グラスロッドにはない「キレ」と「適度な張り」を併せ持つブランクスが完成した。

難しいのは、この手のしなやかさを求めたロッドに関しては最先端カーボンだけでは解決できないということ。しかし前述の通り、遠方でのフッキング性能は絶対条件。そのためにバットセクションの補強として、最先端素材であるトレカⓇT1100Gを高レジンカーボン×ローテーパーならではのシャフト全体がムチのようにしなる柔軟性を犠牲にしないギリギリの絶妙な分量で使用したのだ。これもある意味、最新設計技術のなせる技と言えるだろう。

こだわり抜いた素材選択&テーパー設計で両立した粘りとキレ。しかし、しなやかに曲がるロッドゆえの最難関がスパインの克服であった。それを実現したのが、このロッドの製法上の最大のキモとなるブランクス構造である。

通常、釣竿に使われるカーボンプリプレグ(カーボンシート)は、シートの厚みが0.10~0.15mm程度なのだが、スーパースティードに採用されたのは、その約1/3の厚みの特殊な超極薄カーボンプリプレグ。そして、その特殊なシートを通常シートの約3倍の回数巻き付けることで構成される超多層構造ブランクス。



単に、巻き付けに通常の3倍の時間を要するのみならず、デリケートな超極薄カーボンシートをムラなく巻き付けるために、最先端かつ熟練の技が要求される非常に手間の掛かる製法で1本1本丁寧に巻き上げていく技術はジャパンメイドならでは。

しかも、今回のスーパースティードには、10年以上前に極薄カーボンシートを用いたクロスファイア製法でスパインを抑制したクロスファイア・スティードと比べても、さらに約20%薄い高品質カーボンプリプレグを用いて、さらなる多層化(=ブランクス肉厚の均一化)を図った進化版クロスファイア製法(スーパークロスファイア製法)を採用している。

高品質ハイコスト素材、高い技術力、さらに多大な手間が要求されるものの、薄いプリプレグを幾重にも巻き付けるこの製法により得られるメリットはそれ以上のものがある。それが、ブランクス断面の肉厚が均一化されるということ。通常製法では避けられないカーボンシートの巻き初めと巻き終わり付近に生じるブランクス厚の偏りを極限まで排除することができるのだ。


❶一般的なブランクスと❷超多層構造ブランクスの構造比較




断面を見た際にブランクス厚に差があるということは、ロッドが曲がる方向によって若干の硬い柔らかいという微妙なバラつきがあるということである。これにより、キャスト時等に一箇所だけ突っ張った感じや抜けた感じ、または微妙な引っ掛かり感が生じるため、ブランクス本来の能力をロスしてしまう。

しかし、ブランクス厚が均一であれば、どの方向に曲がっても力のバランスが等しいためブランクスの潜在能力を100%引き出すことができるのだ。意識しないと認知できないレベルのほんのわずかなことだが、実はこれひとつでロッドの性能に致命的とも言える大きな差がついてしまうこともある。今まで自分のミスだと思い込んでいたミスキャストが、実はロッドに原因があったのかもしれない……しなやかなロッドにおいてそれほど重要な要素が、ブランク断面の肉厚の均一化なのである。

これにより、あらゆる体勢から気持ち良く正確なキャストを繰り出すことができるのはもちろん、通常のしなやかなロッドにおいてキャストの際にアングラーが無意識に行っている一箇所だけ突っ張った感じや微妙な引っ掛かり感を補正するための微調整動作が必要なくなるため、知らず知らずのうちに蓄積してしまうキャスト疲労やストレスを軽減することにも貢献する。

■スーパースティードGT-Rのキャスト
スーパークロスファイア製法により生み出される美しく弧を描くベンドカーブ。超多層構造ブランクスが肉厚のバラつき(スパイン)を抑制するため狙い通りキャストが決まるのはもちろん、キャスト~ランディングまですべての過程においてブランクスの潜在能力を100%発揮させることができる。


さらには、あらゆる方向へスムーズに曲がり込む効果として、高レジンカーボン × ローテーパーで手にしたバイトの乗せ性能をさらに高めながらも、スパインが悪さをしてフッキング時にグリンと急に力が抜けるような現象も起こらないため、しなやかながらもフッキングパワーをロスせずしっかり伝えることで遠方でのフッキングをサポートする。



また、掛けてからも「素材 × 構造」が生み出す素直な追従性で身切れを抑制し確実にランディングに持ち込む能力まで併せ持つ。しなやかなロッドにとっては、その長所をさらに高め、短所を完全にカバーしてくれるまさに理想的な製法、それがスーパークロスファイア製法なのである。




“GT-R”に込められた想い ▶ 究極のブランクス性能を活かす唯一無二のセッティング
インスピラーレシリーズを発表した当初、このスーパースティードのテストも進んでおり、他の機種と同様、ピークパフォーマンス仕様の「RSリミテッド」とワイルド&タフな「GT」の2本立てでのリリースが検討されていた。しかし、RS&GTの2本立てではなく、スーパースティードは「GT-R」という新シリーズを背負うこととなった。

「スーパースティードはRSとGTの差別化が不可能だった。唯一無二のセッティングで成り立っているため、たとえブランクスが同じでも、RS化もしくはGT化してしまうとまったく別のロッドになってしまう。長きに渡るテストの結果辿り着いた答えが、このロッドにはグリップはRSベースでありながらガイドセッティングはGTベースのセッティングしかあり得ないということ。そこでRの遺伝子を宿したGTという意味で“GT-R”として1本化することにしたんだ」



しなやかに曲がり込んでまっすぐしなり戻る極限までスパインを抑えたローテーパーのブランクス。そのスムーズなベンドカーブを邪魔しないために、ティップ~ベリーセクション(トップ~#5ガイド)には、チタンフレームのシングルフットガイドを搭載。ただし、ブランクスへの影響を最小限に抑えつつも、ガイド抜けや変形を軽減する強化タイプのシングルフットフレームを採用している。そして、キャスト飛距離とアキュラシーのバランスやシャッド等の微振動ルアーの振動伝達性を考慮し、内径が確保できる範囲で最小サイズのトルザイトリングガイドを選択。

一方バットセクション(#6~9ガイド)には、ステンレスフレーム・ダブルフット・SiCリングガイドガイドを採用。同一ブランクスで、バット部にチタンフレームとステンレスフレームを搭載したプロトを用意し実釣テストを繰り返した結果、チタンフレームガイドではローテーパーゆえにバットまで曲がり込み、少し弱く感じるケースがあった。ステンレスフレームガイドの方は、ガイドフットの剛性感が増すことでバットの力不足を感じさせないばかりか、スムーズな曲がりを邪魔することもなく理想的なベンドカーブを維持。このブランクスにはこれしかないというガイドセッティングとなっている。



さらに、360度どの方向にも同じパフォーマンスを発揮するというブランクス特性を活かしたキャストを、適材適所で自由自在に繰り出すためにも重要になるのがグリップ。

オーバーヘッドキャスト、スリークォーター、サイド、アンダーからのフォアハンド、フォアハンドサークルはもちろん、バックハンドやバックハンドサークル……あらゆる角度、体勢からのキャストで手首や腕、袖の邪魔にならない、軽量セパレートタイプを採用しているが、これも他に選択肢はなかった。



実際、GTセッティングとしてEVAストレートグリップでもテストを繰り返していたのだが、結果は芳しくなかった。グリップ重量の増加により重心が手元に寄りティップが軽くなり一見良さそうに思われたが、その結果ブランクスのしなり戻りが若干速くシャープに感じられ、スーパースティード本来のしなやかな粘りを100%発揮しきれなかったのだ。ガイドのみならずグリップにも、これしかないというセッティングは確実に存在した。


スーパークロスファイア製法により生み出されたブランクスに、その性能を限界まで引き出すためのガイド&グリップのセッティングを施して誕生したGT-R。今まではアングラー側のスキル不足やミスだと思い込んでいたミスキャストの原因が、もしかするとロッド側にあったのではないか……そんな思いをアングラーに抱かせる究極のキャストフィール。そして、実戦で最も重要とも言えるバラさず確実に獲る能力。

カーボンロッドならではの軽量感とシャープさを持ちながら、まるでグラスロッドのようなしなやかさと追従性を併せ持つ、ライトウエイトスポーツを極めた無双のムービングスペシャル。スーパースティードGT-R。新たな「巻き」の時代が到来する。
GTR-C66LLR スーパースティード
●Length : 6'6" ●Power : Light PLUS
●Lure Weight :1/8~1/2oz. ●Line : 6~14lb.