text & photographs by Basser
(バサー2024年9月号より転載)
ワイルドハンチ20周年
巻くだけで「勝てる」クランクベイト、ワイルドハンチは清水盛三さん曰く、
「一生投げ続けられるルアー」だと言う。
この言葉の真意を誕生当時の話しとともに伺った。
■プロフィール
清水 盛三
(しみず・もりぞう)
1970年生まれ。大阪府出身。大学時代の1991年にプロトーナメントデビューすると、同年NBC西日本オープンでAOYを獲得。その後JBトーナメントで結果を残す。
活動の舞台をアメリカに移すと、ウエスタンオープン参戦初年度にトップカテゴリーへの昇格を果たし、2006年には日本人初となるB.A.S.S.エリートケンタッキーレイク優勝など、輝かしい成績を残す。
そのほかには2011年、2014年、2015年にバスマスタークラシックにクオリファイ、2022年にはBasserオールスタークラシックで初優勝を果たす。
清水盛三に届いた「虫の知らせ」
ハンチは、「勘」や「第六感」を表す言葉だ。ワイルドハンチとはそれに、野生のという意味を付け足した清水さんオリジナルの造語だという。清水さんとワイルドハンチの劇的ストーリーと言えば、2022年のBasserオールスタークラシック初優勝に大きく貢献したことが記憶に新しい。
2022年のオールスタークラシック、悲願の初優勝の立役者になったのもワイルドハンチ。
初日、フラットフォースでキーパー2本をキャッチした後、ブレイクの寄っていない遠浅のシャローを流し続けて1770gのキッカーを獲りリミットメイクを達成した。
このとき使用したのはSRモデル、カラーはブラウンバックチャート
●全長:52mm ●自重:10.0g ●潜行レンジ:0.5~1.0m
が、このクランクベイトをワイルドハンチたらしめる出来事は20年以上前に遡る。2001年、清水さんは国内ですでに開発がスタートしていたワイルドハンチのプロトを持って渡米。ウエスタンオープンにフル参戦する傍ら、現地で更なるテストを繰り返していた。そのウエスタンオープンの第3戦のプラクティス中のことだった。持ち込んだサンプルがあまりにも釣れすぎてしまい、リップの付け根がひび割れてしまったのだ。好調のサンプルを失うわけにもいかず、なんとかほかに釣れるクランクベイトを現地で探し出して本場を迎えた。
清水「その試合の最終日、終了30分前になっても3匹だったかな……。リミットが揃わない状態でそのときを迎えてしまって、もう意を決して折れそうになってるリップのワイルドハンチを出して、30分でリミットを揃えて更に2本入れ替えた。『ありがとう!!』って言ってボックスに戻したんですよ。結果その試合を上位で終えることが出来て、それがなかったら1年目でワンハンドレッド(現エリート)に行けてないんですよ。だから1年目でトップカテゴリーに上がれたのはワイルドハンチのおかげ。ここからハンチの歴史はスタートしてるんですよ。虫の知らせでしたねぇ~。『投げろ』という」
答えは僕の目と指先にしかない
その出来事を経てからも数年間ブラッシュアップを重ね、遂に完成したワイルドハンチ。テスト期間は約5年に及んだ。その間、1番こだわったポイントはどこかという記者の問に対し、「もちろん全部」という答えが返ってきた。そして、清水さんは自身で手掛けた全てのルアーに対し「地球上からバスがいなくなるまで釣れる」という絶対の信頼を寄せている。その自信の源は、膨大な数のルアーを引き倒してきた自分の手、そしてその動きを見続けてきた自分の目が「良いルアー」と判断したからに他ならないという。
●全長:52mm ●自重:9.6g ●潜行レンジ:1.2~1.6m
▶推奨タックル
[ロッド]ML~M 6ft~7ftベイトロッド
[ライン]フロロカーボン8~14Lb or
ナイロン10〜20Lb
清水「よく聞かれますけどね、ハンチが何で釣れ続けるかという仕組み的な秘密は話すことが出来ません、すぐパクられちゃいますからね(笑)。というのは冗談にしても、簡単に言葉に出来ないというのが大きなところですね。僕の頭の中には完璧に釣れる動きのイメージがあって、それを再現するのにありとあらゆることを試すわけです。リップやボディーを削ってみたり、オモリを張ったり、それでもアカンとなったらまた作り直しです。
ただその『釣れる動きのイメージ』が何で頭の中にあるのかと言えば、実際に買ってきて自分の手で巻いて、動きを目で見たルアーの数が膨大だからです。アメリカでは常に試合に勝てるルアーを探して、気になったものは片っ端から引き倒しました。試合で使うことを想定すると、ロストの可能性を考慮してそれなりの数を揃えることも珍しくありません。2度と買えない可能性もありますからねぇ。それをひたすら続けてきた経験の賜物としか言えませんね。トータルで1000万はかかってると思います。自分自身で試したルアーの数で言ったら、僕に敵う人はそういないと思いますよ。
そんなことをずっとやってきたもんだから目で見た釣れる動き、あとはロッドとライン、リールを介して手元に伝わってくる振動を指先の感覚で覚えてしまっている。そこをゴールにあとはひたすらトライ&エラーで苦しむ。3DプリンターやらCADデータなんてもちろんない時代だから、手作業で修正を繰り返しては1日中投げて引きまくりです。日の出から日没までって意味じゃないですよ、『1日中』です。明るいうちはフィールドで、暗くなったら開発の施設で夜中も(笑)。忘れもしないですよ、雪が降るなか、でっかい水槽もないのでアルミのジョンボートに水を溜めて、障害物とかを入れてルアーを引くんですよ。頭の中というか、自分の目と手感覚が知っている正解に辿り着くまで。そら5年とかかかってしまいますわ。しかもその正解が至って抽象的だからルアーデザイナーには信じられないくらい迷惑かけたと思いますよ。けど、彼らもその道のプロだしとことん付き合ってくれた。ありがたいことですね」
2009年大会では12時までノーフィッシュながら、そこからわずか40分の間に5本をキャッチし、リミットメイクを達成するという怒涛の連発劇を演じた。
3本目までをキャッチしたのがフラッシュチャート、そこからバイトが遠のいたが、フラッシュクラウンへのカラーローテーションで2匹を追加した。
いずれもノーマルモデルだが、フロロ8Lb~ナイロン20Lbまで、同じタックルをライン違いで揃えることで1モデルでどシャローから浚渫跡の深場まで対応できるワイルドハンチの強みが光った試合でもあった
目で見た「釣れそう」と思える動きのほかに、手元で感じる振動も重要という言葉には納得を覚える。ワイルドハンチをはじめ、清水さんが手掛けるルアーはどれも手元、リールのハンドルノブを握る指にまで明確なバイブレーションが伝わってくるものが多いからだ。また、実際にどう動いているかもさることながら、使用感が損なわれないのも信頼して投げ続けられる条件ということでもある。
トップカテゴリーを戦う
トーナメンターの声
清水さんが一生使える武器としてこの世に送りだしたワイルドハンチは、契約メーカーの枠を超えて多くのプロアングラーに愛用されている。青木大介さんもそのひとり。
青木「ボディーや潜行深度に対してリップが長めでとにかく引っかからないですね。使い始めたきっかけは、クランクベイトをボトムにガリガリとコンタクトさせ続けないと食わない状況があることはわかってたんですが、スリ抜けのいいモデルがなかなか見つからないで困ってたところに、コバ(小林知寛さん)に教わったのが最初だと思います。季節を問わず、ボトムに当て続けて食わせる使い方で釣ってます」
一生モノのルアーに
ほんの少しの遊び心
清水さんがMo-Doのルアー開発のコンセプトに掲げるのは、まずは自身の武器になること。トーナメントで圧倒的な差で勝てるルアーを作りたいというのが第一。そして、一生投げ続けられるルアーしか作らないこともそうだ。
清水「僕がアメリカに挑戦しだした当時、日本ではとにかくそこにいる魚をなんとか食わせるためによりライトに、よりイトを細くという方向性が顕著でした。それもひとつのバスフィッシングには変わりないんですが、やる気のあるバスを探し出す、本場のバスフィッシングをもっとみんなに知って欲しいと思ってました。巻いていっぱい釣れるのはめっちゃ楽しいですからねぇ。今みたいにネットやSNSですぐに情報が拡がるワケではないので、とにかく国内でもひたすら巻いて釣るのが、それを雑誌やDVDなんかで見てもらうのが1番だったんです。進んでる、遅れてるではなく、日本とアメリカの差をなくしていけたらと思ってました。それは、10年やそこらでは到底無理ですから。一生使える武器を自分で作ったというだけですね。もちろん釣りは遊びなワケですから、カラーリングとかでは意外と遊び心を入れたりもしてます。さりげなく、コッソリとね(笑)」
さて、この度20周年を迎えたワイルドハンチに、ハタチの誕生日を記念したアニバーサリーカラーが2色追加となった。読者の皆さんの楽しみを奪ってしまうので詳細は伏せるが、ボディーの塗装に清水さんの遊び心が加えられているので、ぜひ手に取ってじっくり眺めてみてほしい。そして「あっ」と思った方は、すでにお持ちの既存カラーにも新たな発見があるかも知れない。20年経ってもバスもアングラーも飽きさせない清水さんの自信作、ワイルドハンチ。一生バスを釣り続けたければ巻きまくるべし。B
菊元俊文さんとのカラーチェックの場に少しだけお邪魔させてもらった。カメラを向けると……。
「まだ見せられませんねぇ~(笑)。模様でちょっとだけ、さりげなく遊んでるのでよく見てみてください。実は今までのカラーでも同じようなことしたことあるんですけど気付いてるひとほとんどおらんと思う」(清水)
20周年カラーモデル
こちらがハタチの誕生日を記念した限定カラー。どちらも釣れ筋なのは間違いないが、ボディーの模様に何やらヒミツが……
 
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