カーボン技術に革命的進化をもたらしたスーパークワトロクロスを身にまとい、万華鏡のように千変万化し、光り輝く「カレイド」生誕。
Text by Katsutaka Imae
バスロッド究極の理想、それはキレのある軽くてシャープな操作性、スラックを出してなお感じ取れる超高感度、そしてそれとは相反するモンスターバスの巨体を軽がる浮かす分厚く粘るトルク、強烈な引きを力によってねじ伏せるタフネス、これらの特性を一つ残らず実現すること。「軽くて高感度、そしてトルクフル」。当り前のように見受けられる謳い文句だが、それが何の根拠に基づいて語られた言葉なのか、その根拠を示すことは容易ではない。
ロッドに対し軽くシャープな操作性と高感度を追及すると、カーボン素材の高弾性化は言うに及ばず、カーボン繊維のつなぎとなるレジン(樹脂)量の低減も重要になる。したがって、極端に言えば、高弾性、低レジンタイプのピュアカーボンを採用し、ロッド全体を細く、肉薄化し、スローテーパーの設計となる。しかしその引き換えとしてトルク、タフネスは犠牲となる。一方、トルクとタフネスを求めれば、ブランクスは低弾性でレジン量は増え、肉厚の設計となる。その結果、粘りはあっても重く、愚鈍でダルさの残る一世代前のロッドに戻ってしまう。結局、このさじ加減、味付けは製作者の意図による二者択一の「バランス」の上に成り立ち、その全てを両立させうる物理的根拠は存在しなかった。
昨今の日本のロッド製作、製法技術はまさに世界一と言っても過言ではないほどの独自進化を遂げ、これほどまでにレベルの高いバスロッドは世界的に見ても例を見ないほどだ。かつては宇宙素材とまで言われた超高弾性カーボンすら、今や当たり前のようにバスロッドに生かされる製法が確立され、チューブラーロッドの宿命とも言えるスパインを極限まで排したクロスファイア製法において、私のバスロッド開発はある意味、終点に行き着いた感すらあった。しかし、それでも尚、この相反するシャープさとトルクの真の高次元融合は、私のバスロッドの理想の究極点でもあった。この時より、テムジンは次期モデル開発の大きな壁に突き当たることになる…
そして2008年、遂に革命の時は来た。スーパークワトロクロス。カーボン技術の革命的進化を経て生まれたこの驚異の素材と出会ったとき、私の中で停止していた時間が再び熱く激しく動き出した。宣伝の謳い文句としてではなく、確かな根拠を持ってシャープさとトルクの真の高次元融合が確立できる可能性に触れたとき、私の中でテムジンは完全な次世代モデル、万華鏡のように千変万化し光り輝く「カレイド」として生まれ変わった。

カレイドの特性はまさにシャープさ(キレ)と感度、そしてトルクとタフネスの物理的根拠をもった高次元融合に他ならない。カレイドの製法は簡単に説明すれば、クロスファイアの様なスパインの極めて少ないブランクスに、スーパークワトロクロスと呼ばれる特殊4軸素材を融合させたものと考えれば解りやすい。この特殊4軸素材を用いたスーパークワトロクロス製法とは、極めて緊密なカーボン筋繊維を縦、横、斜め2方向、すなわち4軸方向に纏いブランクスの全方向強度を飛躍的に高めたものである。
柔軟性と分厚いトルクを必要とする縦と横方向には中弾性の筋繊維を配置。感度とシャープな操作性を高めるために斜め2方向には高弾性の筋繊維を緊密に配置。このようにカレイドに用いられる4軸素材は弾性の異なる筋繊維を独自に4方向へ配したオリジナル設計となっている。これによって、いわゆる高弾性ロッド並みのシャープさ、感度を持ち、同時にヘビーデューティーロッドに負けないパワフルなトルク、タフネスを両立させているのである。
また基本ブランクス構造ではワイルドスタリオンで培ったビッグテーパー理論を活かし、非常に強力で図太い筋肉の質感あふれるハイテーパー型のバットを持たせた機種が多い。従来ならビッグテーパーは大きな負荷がかかった時にブランクス断面が楕円に変形しやすい欠点をもつため、どうしても肉厚を十分に取る設計が不可欠になる。しかし、このカレイドの特殊4軸筋繊維はそのブランクスの楕円変形を極めて効率よく抑えてくれるため、必要以上の肉厚化をせずとも、軽量ながらビッグテーパーの強烈なトルクをロッドに与えることに成功している。二次的な効果としてハイテーパーによるメガホン効果はアコースティックギターのような振動共鳴効果を起こし、感度面にも大きく貢献している。
そして最後に、このカレイド開発において従来の方向性に対し変更点を加えたとすれば、それは敢えて従来のテムジンシリーズ以上の軽量化を好しとはしなかった事だ。スーパークワトロクロスを用いれば、実際には現在のテムジンの強度を維持したまま、驚異的な軽量化が可能ではある。しかし、指向性を軽量化に向けるのではなく、あえてトルクとタフネスの強化へと向けたのだ。その結果、数々の取材やトーナメントで、50cmをゆうに超えるバスを実際のサイズより遥かに小さく誤認し、いとも簡単に抜きあげてしまうほどの驚異的トルクとタフネスを手に入れる事が出来たのである。
「軽くシャープな操作性、超高感度」と「粘りのあるトルク、豪快なタフネス」。その両立がスーパークワトロクロスと言う確かな根拠をもって成し遂げられた今、バスロッドはまた一歩、新たな理想に向けて踏み出したと言えるだろう。