ジャイアントディアウルフ 開発ストーリー
~ プロローグ ~
「ビッグベイトの終焉」
誰でもビッグベイトを極普通にキャストするようになった、ある意味特殊な現代バスフィッシングでは、ビッグベイトのサイズインパクトから生じる存在感、希少性を主な理由としてバイトに持ち込める時代は終焉を迎えつつある。
そして、桁違いなファーストインパクトを求めたオーバー30cmというマクロに振り切ったジャイアントベイトの登場。新しいロクマルハンティングルアーとしてひとつのジャンルを確立したものの、ジャイアントベイトを許容する器の大きなフィールドが多いとは言えない現在の日本では、出しどころが限られる特殊な魔球という側面も強い。
いずれにせよ、以前は効果的であったこの手のルアーの基本的な使い方である、プロダクティブゾーンを最大距離確保するためのロングキャストから、ビッグルアーの力に頼ったストレートリトリーブといった、従来然とした釣り方だけでは喰わせきれない時代を迎えている。
そんな現代バスフィッシングにおいて、着目される新たなスタイルがある。ビッグベイトを障害物付近で繊細に操作する、精度重視のビッグベイティングである。
「ビッガーベイトの可能性」
イメージは、ベイトフィネスでの近接戦カバー撃ち。バスが潜んでいそうなレイダウンやティンバーから、10~15mほどのディスタンスをとり、低弾道で「ビッグベイト」をカバー際に正確に送り込み、繊細なロッドワークで操るという行程。ルアーの力を頼りにしたビッグベイト特有の釣り方ではなく、アングラー側の技術も要求される釣りでもある。
今江克隆がこの釣りで主に使用するルアーは、50gのギル型ベイトから200gクラスのジョインテッドベイトまでと、ウエイト幅が相当に広い。その中でも、ビッグベイト以上ジャイアントベイト未満というニッチなサイズ感のビッガーベイトは、今江が最も注目し多用する存在である。
これまで練習や取材で、ビッグベイトで反応がなく、肉眼でも何も見えない一見「バスはいない」と思える状況でも、ビッガーベイトを送り込めば、いなかったはずのバスがどこからともなく湧いてくることが多発した。それも池原や琵琶湖というビッグフィッシュレイクではなく、極普通のリザーバーでの出来事に、ビッガーベイトの隠された力を確信。その18~25cm程度のボディサイズは、ある程度の汎用性を担保した範囲で、集魚力とインパクトを最大化したものと言えるのだろう。
「新時代のビッグベイティング」
そんな200gクラスのビッガーベイトを障害物周りで繊細に操るために。まずは正確なキャストが重要なのは言うまでもないが、それと同時に重要なのが、着水音と飛沫のコントロールである。
ビッグベイトの腹打ちのような派手な着水音には、バスを呼ぶ効果も併せ持つ。しかし、それはアングラーから遠く離れた、フル遠投無警戒の場合に限られる。カバー近接戦の場合は、ボートやアングラーを認識されていることが多いため、水面を這うような低弾道キャストと正確なサミング、繊細なロッドワークのすべてを使って、着水音と飛沫を徹底的に抑え込むことが必須となる。
静かにカバー際に着水させると、バスは水面直下に突如出現した巨大な存在に異物感を察知。至近距離まで浮上すると、そいつが何者なのかを確かめようと観察する。ルアーは不動を決め込み、人工物であるかのような空々しい動きは発しない。
この時点では喰うきっかけも動機もないが、バスの興味が薄れ、そこから離れようと視線を移した刹那、鋭くキレのあるワンジャークでルアーを逃がしてやると、一瞬で捕食本能のメインスイッチが入り、バスは躊躇なくルアーに襲いかかる。これがビッグベイティング近接戦の基本所作である。
「存在しない対近接戦ビッグベイトロッド」
この矛盾に満ちた、重量級ルアーを高精度でフィネスに操る釣りを成功に導くためには、ルアーのパワー、アングラーのテクニックに加えて、専用タックルの有無、特にロッドの性能に左右される割合が非常に高くなる。
なにより、ビッガーベイトを15m先のレイダウンの隙間に無音で落とせるコントロール性能は不可欠。そして、ヌルリとした鈍いジャークではバイトトリガーは引けない。でかいルアーをキレ良く瞬間的に逃せる鋭さ、さらには、近距離で掛けた後もバラさない全体調子の粘りも必要だ。
また、近距離戦とは言え、重量級ルアーを片手でピッチングする際の身体的負担もかなりのものだし、ジャーク時の手首へのキックバックも相当なものがある。
しかし、これまでのビッグベイトロッドは、ロングキャスト対応、パワー&トルク型に作られた機種が多く、7フィートオーバーのエクストラヘビー級がデフォルト。全長だけでなく、リアグリップが長いパワーハンドルタイプが主流である。カバーの隙間を縫うアキュラシーキャストには不向きであり、ルアー操作性においても、その長さと重さから体力的負担が大きい。
ビッグベイトの近接戦を満足に遂行するには、さらに、現代の最適解と成り得るビッガーベイトの能力を十分開花させるためには、新たなロッドの開発が急務だった。
「コードネーム・ビッグベイトショート」
当初6フィート3インチというビッグベイトロッドとしては常識外のショートレングスから開発をスタートさせた今江。アキュラシーと操作性を重視したパワーロッドといたって理屈はシンプルだが、実際フィールドテストを繰り返していくと、重量級ルアーとショートロッドの相性はことのほか良くないと言う。しかし、これはある意味予想通り。
そこでさらに、全体のテーパーやティップの張り感、ベリー~バットの粘り、グリップの長さ等を見直しながら、1インチ刻みで全長を調整したサンプルを作成して、実釣テストを繰り返していった。
その途中経過として2021年のカタログで「C-65MHX」というビッグベイトショートモデルを発表したものの、今江の探求心は留まるところ知らず。その後、ビッガーベイトの潜在能力に大いなる可能性を見出したこととも相まって、巨大&重量級ルアーのキャスト性能と操作性の絶対バランスレングスを追求し続けた。
それも、6フィート台を試し尽くすと、ついには全長7フィート超え、72から73、果ては74まで、考えうるレングスにすべてトライするという徹底ぶり。
そして……確信した6フィート11インチ。
舞台となったのは、2021年Basserオールスタークラシック「KING OF KINGS」。
日本中のバスアングラーが注目する緊張感溢れる大一番で、しかも晩秋の超タフなあの霞ヶ浦水系で、ビッグベイトを丸2日間投げ続けるという大勝負に出た今江。その時に使用していたロッドが、ジャイアントディアウルフの最終プロトタイプ、611XXXHだった。
そして、見事期待に応え、カメラの前でビッグフィッシュを仕留めて魅せてくれた今江の姿がそこにはあった。その鮮烈なシーンが、今なお脳裏に焼き付いて離れないというアングラーも多いのではないだろうか。
だが、それはほんの一部に過ぎない。全身全霊で勝負を賭けて、ビッグベイトをカバー際に低弾道で撃ち込み続け、繊細かつテクニカルに操作し続けた濃密な2日間があり、そして辿り着いた確信がある。
その後、日本各地のフィールドで、さらに突き詰められ、さらに深められた今江の確信……ついには確証へと遷移し、ここに登場する。
IRSC-611XXXHR-SXF<SG>
 ジャイアントディアウルフRS 
●Length:6'11" ●Power:XXX-Heavy 
●Lure Weight:14~230g ●Line:12~30lb.