スパイダースピン誕生までの軌跡
全身トレカ®M40X & トレカ®T1100Gダブル採用が織りなすバーサタイルパワーフィネスの極み。パワーフィネス新時代の到来を予感させる蜘蛛の糸、天より来たる。
プロローグ
「今後、劇的な素材革命でも起きない限り、パワーフィネススピニングロッドの史上最高傑作にして最終形態、終着点になると断言できる」
今江克隆にそう言わしめたロッドが、ついに誕生する。
吊るしを極めながらも、卓越したバーサタイル性能を有し、パワーフィネスの極みを体現するスパイダースピン。今江が長きにわたりスピニングロッド開発、そしてパワーフィネスというテクニックと向き合い、積み重ねてきた歴史を紐解きながら、その進化の過程を振り返ってみよう。
[ 第1章 ]
異端児スピンコブラの出現により
加速するパワーフィネスの進化(=深化)
常識を覆すパワーフィネスというスタイル
遡ること約20年。複雑に入り組んだブッシュやレイダウン、立木、リーズ、浮きゴミ等、多種多様なヘビーカバー、難攻不落の要塞に潜むビッグバスに対し、スモラバのようなライトリグでアプローチ。そして、掛けたら強引なやり取りで瞬間的に陥落させる……といった、当時の常識を覆す釣法がブレイクする発端となったロッドが存在する。
それが、ベイトロッド、テムジン・コブラのブランクスをそのまま流用した怪作、“テムジン・スピンコブラ(TMJS-63MH)”だった。
スピンコブラは「ベイトロッドブランクスのビッグバスに力負けしない圧倒的なパワー」「スピニングならではの軽量ルアーのキャスタビリティ」の融合という斬新なコンセプト「パワーフィネス」で時代をリード。
さらにコンセプトだけでなく、圧倒的な釣果を残したことで一世を風靡し、まさに時代を切り拓いた存在として歴史に名を刻むロッドとなった。
パワーフィネスの普及に伴うスタイルの変貌
スピンコブラの誕生を発端に、パワーフィネスタックルはプロアングラーのみならず、全国各地のアングラーと共に着々と進化を遂げていく。
パワーフィネスというテクニックが誕生した当初は、複雑なカバーに軽量ルアーが入りさえすれば、そこに潜むバスから素直に反応が得られた。それゆえ、狙いのスポットにキャストするためのアプローチディスタンスは至近距離からのショートピッチングが主流。掛けてしまえば、あとはパワー勝負で一気に取り込むといったスタイルである。
しかし、年々フィールドのプレッシャーも高まってきたことから、パワーフィネスのスタイルも徐々に変貌。カバーに対しディスタンスを取り、キャスティングやロングディスタンスのピッチングでのアプローチが要求されるようになったことを受け、十分なパワーを備えつつ、レングスアップした“スピンコブラQ7 クワトロセブン(TKLS-70MLX)”が誕生することとなる。
このスピンコブラQ7は、その名の通り7フィートのレングスに起因する「遠投性」、スピンコブラ譲りのバットセクションの「強烈なパワー」を備えており、パワーフィネスのみならず、タイニークランクやスモールシャッドにも完全対応。ソフトベイト、ハードベイト問わず高い対応力を持つことから、陸っぱりのバーサタイルスピン的な存在としても支持されたロッドでもあった。
新たなカバー攻略テクニック、
ベイトフィネスの台頭
時を同じくして、通常ならばスピニングで扱うような軽量ルアーをベイトタックルで扱うテクニック「ベイトフィネス」が生まれた。そして、専用ロッド、専用ベイトリールの登場と進化に伴い、至近の約10年程度で一大ムーブメントを築き上げた。
使用するラインの中心はフロロカーボン6~10ポンド程度と、一般的なベイトタックルに比して比較的ライトなラインを使用するスタイルであるが、リールの構造上スピニングリールでそれらのラインを使用するよりもトラブルレスで扱いやすいことから、カバー攻略にアドバンテージを発揮。
さらに、クラッチのオンオフや繊細なサミングが容易なベイトタックルならではの「手返しの良さ」や距離感を含めた「キャストコントロール精度の高さ」からボートアングラーに好まれ、とりわけトーナメントアングラーにとって必要不可欠なテクニックとなった。
他方で、この接近戦スタイルは、足場の固定された陸っぱりアングラーにとっては、ともすれば汎用性に欠ける、制約の大きいスタイルであったことも、また事実であった。
スーパータフソリッドの登場と
さらなる進化への示唆
バスフィッシングにおいて、もはやフィネス(=スピニング)とパワー(=ベイト)の境界は崩壊しつつあった。さらにPEラインの普及もがその潮流に拍車をかける。その最中、今江は「スピニングギアへの要求と理想を根底から新構築する」とのコンセプトを元に、テムジン・カレイドからスピニングシリーズを独立させることを決断。
トップトーナメントにおいて、さらには日本のハイプレッシャーフィールドと対峙する上で、スーパーフィネスからパワーフィネスまで、スピニング戦略全域を見直し、カーボン素材、ソリッド接合技術、独自のグリップデザイン等々、その時点で考えうる限り最高の製造技術と、今江の膨大な経験から来る叡智のすべてを注ぎ込み、カレイド・セルペンティシリーズとして数々の作品を誕生させてきた。
中でもパワーフィネスの代表機種は“ブッシュサーペント(TKSS-66MHST)”。ベイトロッドの肉厚カーボンコンストラクション(ブランクス構造)に、スーパータフソリッドティップを独自の技術で接合したモデルである。
このユニークな設計により、MHベイトロッドと同等のパワーを持ちながら、バックラッシュの心配をすることなく、MHのロッドではまともにキャストできないような軽量ルアーをティップセクションに乗せて軽快にキャストできる能力を獲得。元祖パワーフィネスロッド、スピンコブラのコンセプトは着々と進化を遂げていった。
[ 第2章 ]
パワーフィネスの究極解
「吊るし」を極めるための試行錯誤 
ソリッドティップMHショート、
吊るし専用機種ハングマン
昔チョウチン、今吊るし。チョウチンとはチョウチンアンコウが餌のような発光物を頭上からぶら下げ、それに寄ってきた小魚を一呑みにしてしまうハンティングスタイルに似ていることから名付けられた釣法であり、黎明期のパワーフィネスにおいて主流の釣法であった。
その名の通りオーバーハングの枝葉にラインを掛けてチョウチンのようにルアーを上からぶら下げ、バスにラインや着水音を悟られずに誘えるという点で画期的な釣法であったが、パワーフィネステクニックが一般に広く認知され、普及することでフィールドのハイプレッシャー化が一気に加速。バスは、よりカバーの奥深くに身を潜めていくことになる。
そうしたバスを攻略する上で、複雑なカバーのより奥にラインを掛けてルアーを吊るしたアプローチが必要となるだけでなく、そこで掛けたバスを枝越しに吊るした状態で、ボートを突っ込んでランディングすることが要求される特殊な状況も多々発生。
このスタイルの変化は、ルアーを吊るしてバスも吊るす「吊るし」へと名を替える由来となり、カレイド・セルペンティのロッド開発にも大きな影響を与えることになる。その過程で今江が水面下でテストを続けていたロッドが、“ハングマン511MHST”であった。
ボートでの超接近戦を念頭に置いたショートレングス、軽量ルアーをキャストし繊細に操れるソリッドティップ。その反面、その名の通り大型バスを枝に吊るしてでも、ボートで近づいてランディングできるパワフルなバットを併せ持つ、吊るしに特化した専用MHショートロッドのテストは順調に進んでいたかに思われた。
特化機種ゆえのジレンマ、
フルチューブラー・ウォーガゼルの存在
実はこのハングマン、PEベイトフィネス&PEパワーフィネスシステムの進化・完成を標榜するロッドとしてベイト、スピニングの両輪で開発が進んでいた。しかし、その中でもベイト仕様のハングマンを開発停止に追い込むロッドが存在したことは記憶に新しい。
その理由を端的に記すと、ソリッドティップではリグウエイトによってはティップ垂れが発生し、アングラー側の狙いをよそに、狙いより手前にリグが着水してしまうことがあったが、張り感のあるチューブラーティップではそれが明らかに起こりにくかったこと。
さらに、物理的継ぎ目がなく力の伝達がスムーズなチューブラーロッドは、遠距離からカバー最奥をえぐるスキッピング、ロングピッチングにおいてもアングラーの手元操作感としてももたつき感がなく、ソリッドティップロッド以上の実戦能力を発揮したこと等が挙げられる。
スピニングハングマンでは、ベイトハングマンよりも軽量リグを扱うことになるため、キャスト時のティップ垂れの問題はそれほど深刻ではないかもしれない。しかし、スピニングロッドのショートレングス化はベイトロッドのそれ以上に、実戦におけるマイナス面として懸念材料となった。巻き取り時のパワーロスが少ないベイトタックルに比べると、スピニングでは、ショートレングス化による打点の低さが及ぼす影響がより大きくなり、ランディング率の低下につながってしまうのだ。
しかも、キャスト時にはさほど問題がなかったソリッドティップが、フッキング時にはその入りシロが、ともすれば喰ったバスに反転する一瞬の隙を与えてしまうことで、ランディング率の低下を引き起こす要因の一端となってしまう。
そして何より、この超ショートロッドをリリースするには、ボートの吊るし専用という使用用途そのものがあまりにもニッチ過ぎることも現実問題としてあった。
しかしながら、決してハングマン511MHの開発に意味がなかったわけではない。この時点でパワーフィネスシステムを進化・完成させる上でのカギとなった要素が「チューブラーティップの優位性」であることに今江は早期に着目し、ハングマンは別角度のアプローチによって更なる進化を遂げていくことになる。
[ 第3章 ]
パワーフィネス究極の理想解を追求する
別角度からのアプローチ
水陸両用バーサタイル
パワーフィネスロッドへのニーズの高まり
時を同じくして、今江のもとには多くのアングラーから、かつてのスピンコブラQ7のようなバーサタイルパワースピニングロッドを求める声が届いていた。
無論、カレイドやセルペンティというロッドに対しては、高度なトーナメント戦略のみならず、「1本のロッドで、多様なルアーをハイレベルに扱いたい」という陸っぱりアングラーのニーズがあることを今江は把握している。今江自身も陸っぱりの取材時には、このようなロッドがあれば便利だという思いはあるものの、なにぶん陸っぱりユーザーのニーズ“だけ”を満たすロッドでは今江自身の戦力にはなり得ないし、カレイド・セルペンティの名を冠するには不十分である。
しかし、個体数の減少と大型化が明確に進んでいる現在のフィールドでは、スレたビッグバスを狙って獲るために「強くて繊細なことができるタックル」が、陸っぱりだけでなくボートでも、さらには1本の価値が以前と比べ物にならないほど高くなっているトーナメントの世界でも、不可欠な存在になっているという現実もあった。
そこで、積極的に陸っぱりアングラーの意見を取り入れながらも、今江自身の絶対的トーナメントニーズも満たすロッドとして、“新世代バーサタイルパワーフィネスロッド”を誕生させる計画を極秘にスタート。
まず、開発第一段階においては、叩き台となるファーストサンプルとして、高度なロッドビルド知識を持つアマチュアロッドビルダーであり、陸っぱりアングラーでもあるEG公式モニターが、バンクフィッシャー目線での理想形(あるべき姿)を追求しながら、自身のための1本だけのスペシャルカスタムロッドを作成することになった。
その際、協力を依頼した人物が、G-nius project代表、かつ富士工業のプロスタッフを務める青木哲氏であった。優れたカスタマイズ職人でもある青木氏の工房で、青木氏の定評のあるグリップ&ガイドセッティング理論も取り入れながら、カスタムロッドの作成が始まった。
陸っぱり発信、パワーフィネスロッドに
求められる設計を模索
その基本的なコンセプト(求める性能)は以下。
陸っぱりで想定される様々な局面への対応力を考慮した長めのレングス(=有効レングス7フィートクラス)&チューブラーティップ。
フィネスワームやスモラバを用いた軽量リグから小型スイムベイトやフルサイズジャークベイトまで、しっかりと扱える広域対応力。
フルキャストでの遠投性能と、ピッチングによるピンスポットへのキャスト精度の両立。
シャープでもたれずシャキッとした操作感、かつ細かく繊細なシェイク動作をも苦にしないバランス。
テクニカルな動作に対応するストレスのないグリップ設計(長さ、形状、径等)。
遠方やカバー越しのフッキング~ファイト、足場の高い場所からの抜き上げまでを含め、一般的なスピニングロッドの規格を超える圧倒的なパワー。
しばらくして、両者の協力のもと作り上げたカスタムロッドが、今江とエバーグリーンの開発部に持ち込まれた。
ここからが本番。このロッドを叩き台にして、エバーグリーンの開発部が有する素材・生産技術によって正式なプロトロッドの設計フェーズに移行することになる。
前述の求める性能をさらに昇華させるために、非常に難度の高い理想形を目指しながらも、陸っぱりだけでなく、ボートフィッシング、トーナメントでの使用も見据え、今江とエバーグリーンが今まで培ってきたノウハウを余すところなく注入していった。
グランドコブラの意思を受け継ぐ、
“グランドスピンコブラ”コンセプトの誕生
「繊細な操作感」と「圧倒的なパワー」を兼ね備えた7フィート級バーサタイル・テクニカルシャフトという難題を高次元で具現化するために。心臓部となるブランクスには、高強度と高弾性率を両立した、バスロッドのメイン素材としては事実上最高峰であるトレカ®M40X(40トンカーボン)と、衝撃的登場から早数年、バスロッドの基準を根幹から変えた高強度・高弾性カーボン トレカ®T1100G(33トンカーボン)を、バットエンドからティップ先端までのフルレングスにダブル採用。
さらに、そこからバット~センター~ベリー部に、ふたたびトレカ®T1100Gを補強材としてプライアップするという、現代カーボンロッド技術の集大成ともいえる工法を惜しみなく投入。多様なルアーへの対応力の高さ、飛距離、アキュラシー性能、操作性に感度等の総合力の観点からフルチューブラー構造を採用した6フィート11インチ。
まさに現有する最先端素材と最高峰の製造技術の融合による新時代のバーサタイルパワーフィネスロッドの新境地を切り拓こうとするこのロッドに、今江をはじめとする関係者全員が「5グラムテキサスリグから4オンスビッグベイトまで」という既成概念を覆すコンセプトを具現化した革新的バーサタイルベイトロッド、“グランドコブラ”を想起。
結果、ベイトのグランドコブラに対し、同レングス6フィート11インチのスピニングロッドとして、“グランドスピンコブラ”のコードネームが与えられた。
そして、ボート、陸っぱり両面からフィールドテストを繰り返し、今江と陸っぱりアングラーの意見、さらには言葉や文字にすることが非常に困難なレベルの微妙な感覚値の部分までをも綿密に擦り合わせ、僅かな調整を幾度となく繰り返していく。
この気の遠くなる行程を経て、劇的進化を遂げていくこのロッドは、今江の頭の中から、同時に開発が進んでいたハングマンの存在を消し去るに十分なものであった……
Part2に続く……
TKSS-611MH-TG40X
スパイダースピン
●Length:6'11" ●Power:M-Heavy 
●Lure Weight:1/16~3/4oz ●Line:4~12lb/PE0.8~2号
※「トレカ®」&「ナノアロイ®技術」は東レ(株)の登録商標です。