1990年の初代コンバットスティック誕生から30年。金属繊維ボロン&チタン、超高弾性カーボン、スーパークワトロ4軸クロス&狭角クワトロクロス、トレカ®T1100G、超多層構造ブランクス……その時代時代の最先端素材や技術の粋を駆使して造り上げてきた革新的コンセプト。その歩みは止まらない。
インスピラーレ2020年発表モデルではトレカ®M40X、スーパークロスファイアSXF製法を採用。今なお進化を続けるその軌跡を、図解&解説文で足早に振り返ってみよう。
※「トレカ®」&「ナノアロイ®技術」は東レ(株)の登録商標です。
「嗤う前に掛ける」
それがコンバットスティック
1990年コンバットスティック誕生以前のバスロッドは一様に柔らかく、パラボリックと言われるレギュラースローアクションが中心であった。
それらのロッドは曲がりが大きいためスパイン(偏肉)の影響を受けやすく、フッキングでロッドを頭上に持ち上げた瞬間に竿先がグルンと回ったり、キーンという音とともに逆方向にティップが弾けてしまったりする事象が多発していた。俗に言う「ロッドが嗤う」という現象である。
この嗤いを避け、確実にフックセットを行うために生まれたのが、高弾性カーボン+金属繊維ボロンの張りを全面に打ち出したコンバットスティックシリーズ、インスパイアシリーズであった。「ロッドが嗤う前に掛ける」という新しいバスロッドの方向性を提唱し、琵琶湖のトーナメントで連戦連勝という一時代を築き上げた。
超高弾性カーボン時代の幕開け、
テムジン登場
「嗤う前に掛ける」という路線をさらにシャープに、さらにキレよく仕上げたのが、超高弾性カーボンを採用したテムジンシリーズであった。
40t超高弾性カーボンをメインに、50t超々高弾性カーボンやチタンまでも採用し、一瞬のキレで掛ける超高弾性時代を牽引、琵琶湖全盛期の絶対王者として君臨した。だが、この特殊性能はすべてにおいて万能ではなかった。
当時のバストーナメントはオフショアの釣りがメインとなるビッグレイク琵琶湖が主戦場であり、キャスト精度より、いかにロッドが嗤う前に掛けるかが勝負の明暗を分けることが多かった。
しかし、時代は脱琵琶湖へと動き出す。複雑なカバーを有する様々なリザーバーや河川がトーナメントウォーターとなり、琵琶湖発祥の「掛け重視」能力ではアプローチ面での限界を迎えていたのである。
脱琵琶湖、アプローチの新局面を開拓する
クロスファイアの誕生
新しいトーナメントウォーターに求められるバスフィッシングロッドの方向性となっていったのは、様々な状況に対応できる卓越したアキュラシー性能、すなわち左右両腕から繰り出せる柔軟なキャスト能力であった。
そのキャスティングをイージーにしてくれるのが4:6のレギュラースローテーパー。ブランクスをしならせることができる分、リリースポイントに時間的余裕をもたせることができるのがその理由である。また、カーボンの弾性も高弾性より中弾性のほうがスイートスポットの時間が長い。24t前後の中弾性カーボンはキックバックが少ないため体に優しくキャストもイージーである。
しかし、「しなりやすい」ということは「スパインが出やすい」=「ロッドが嗤いやすい」ということの裏返しでもある。そのため投げやすいロッドほどスパインの影響を受け、嗤いが発生しやすいという二律背反を負っていた。
そこで生まれたのがクロスファイアシリーズであった。偏肉を可能な限りゼロに近づける特殊なXF(クロスファイア)製法を採用、また完成品検査レベルを格段に引き上げスパインの少ない優良品のみを出荷するという、歩留まりの悪い過程をあえて導入することで、カーボンの偏りをほとんど除去することに成功。
特にサークルキャストにおける、スパインの位置によって生じる右から投げた時と左からの時とのキャスト軌道のブレをかなり解消し、脱琵琶湖時代のアプローチの新局面を開拓した。このスパインレス化の流れは、インスピラーレシリーズの高樹脂カーボン、ローテーパー採用モデルに引き継がれていく。
一世を風靡したスーパークワトロクロス製法
カレイドからインスピラーレへ
その後、高いキャスト精度、粘りとトルクが必要な状況にはクロスファイアを使用しながらも、一瞬の瞬発力でフックを撃ち込む掛けの釣りにはテムジンシリーズを併用していた今江だが、2008年に起こった技術革新で状況は一変。
スーパークワトロクロス製法、いわゆる4軸補強の出現である。ネジレの起こりにくい4軸クロスカーボンを任意のエリアに補強できるクワトロクロス製法をカレイドシリーズで業界初採用。そのパワーと強靭さで一大4軸ブームを巻き起こした。
そして当初の45度クワトロクロスは、より強くしなやかさも発揮できる30度の狭角4軸クワトロクロスへと進化。45度と30度の4軸クロスを最適に配置するハイブリッド式スーパークワトロクロス製法で、狙いのパワーやアクションを自在に表現できるようになった。
さらに進化は続く。インスピラーレシリーズでは、その2つの4軸製法に加えてセミマイクロガイド化、フォアグリップレス化によってトルクとタフネスをさらに強化しながらも、軽量性とシャープさを両立するという進化を遂げた。
バスロッドを根幹から変える
「トレカ®T1100G」の登場
そして2016年、バスロッドの根幹を揺るがす大きな技術的革新が訪れる。素材メーカー大手の東レが33t高弾性高強度カーボン「トレカ®T1100G」を開発したのである。
コンバットスティック、テムジン、そしてカレイドでは「嗤う前に掛ける」というコンセプトを元に高弾性カーボンを採用してきたが、それは、軽く張りがあるが脆いという素材特性との戦いでもあった。しかし、T1100Gは「高弾性の張りや軽さ」と「中弾性の粘りや強度」といった両方の特徴を持ち合わせた特殊なカーボンである。
T1100Gを纏ったグランドコブラに始まるインスピラーレ中期モデルは、高弾性高強度の特徴を最大限に活かし、スーパースタリオンGT2RSグランドスタリオンGT-XラピッドガンナーRSR/HDなど次々に革新的なロッドを打ち出していった。
また、セミマイクロガイドセッティングだけでなく、それぞれの機種の特性に応じて独特なガイドセッティングを施すオリジナルガイドセッティングも中期インスピラーレの特徴である。
パーフェクトスパインレスロッドを生んだ
SXF製法の確立
超高弾性化の流れとは別に、フルスパインレスロッドへの夢を求め続けていた今江は、XF製法の研究開発を継続。そして6年間の歳月を経て2019年、ついにSXF(スーパークロスファイア)製法を確立し、最先端素材だけでは解決しきれなかったしなやかなロッドの設計において、長年求め続けた理想形、スパインレスのスーパースティードGT-Rを誕生させた。
右利きでも左利きでも、ガイドをどこに設定しようがブランクス性能に偏りが出ることはなく、抜群のしなやかさ&スパインレスフィールは、如何なる体勢からでも気持ちの良いキャスティングができる理想のブランクスと言えるものだった。
高弾性カーボンから「トレカ®M40X」へ、
そして、セミスパインレスから
パーフェクトスパインレスへ
スーパースティードGT-Rの完成とほぼ同時期、東レからT1100Gをさらに高弾性化させた新素材が発表された。それが「トレカ®M40X」である。
東レが持つ最先端技術を結実させた最高峰カーボンであり、超高弾性40tという弾性率を保持したまま、強度を約30%向上させることに成功。引張強度や圧縮強度、耐衝撃性が大幅に向上したことで、超高弾性の泣き所であった強度を保持したまま理想的な剛性設計が可能となったのだ。
そして、ブラックレイブン・エクストリームの誕生を持って、超高弾性化の流れもさらなる進化を遂げることになる。
さらに、スーパースティードGT-Rで確立したSXF製法をさらに進化させるチャレンジとして、7ftのスーパースティードをつくることを次の目標に掲げた今江。
ロングロッドになるほど難しいスパインレス化をSXF製法で実現することができれば……また、スパインレスと相性の良いローテーパーだけでなく、テーパー設計の制約を取り払い、あらゆるテーパーへ応用することができれば……
その答えは、クーガー・エリート7とディアウルフ・ワイルド7という2つの対照的な7ftにある。
66MHF-TG40X ブラックレイブン エクストリーム
70MF-SXF クーガー エリート7
70MHR-SXF ディアウルフ ワイルド7